佐伯香也子のブログ

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香り幻視

今年の気まぐれな天気のせいで、我が家の薔薇は早咲きだった。
中井英夫の『薔薇幻視』に影響され、幾本かのバラを育てはじめて8年。
一番のお気に入りは、ベン・ムーン(たぶんスコットランド語で、峰の月という意味)
青バラといっても、淡い青紫色で、香りは高貴なダマスク系

思えば、私は昔から「香り」に弱かった。
街角なんかで少しでも好きな香りに出会うと、あっけなく想像の扉が開く。
「香り」のある文学も好きだ。

プルーストの『失われた時を求めて』に登場するスワン夫人のアパルトマンは、彼女の「使っている香水の匂いが、階段のあたりまで漂って」くるようなところだった。
この箇所を読んだときは、まだ見ぬスワン夫人の豊満さがいっぺんに伝わってくるような気がして、頭の中まで「香り」に侵された気分だった。

『三国志』の魏の曹操の息子、曹丕。
この人は、強くて頭もいいけれど傲慢、という典型的おぼっちゃまだ。
でもそれだけにすごくおしゃれな伊達男でもあって、衣服にはいつも香を薫きしめていた。

戦場で一戦まじえる時にも、フワ〜っと良い香りがするわけである。
向き合う相手のほうは「あっ、いい匂い・・・」とか思ってる場合じゃないだろうが。

この人の書くものもいい。
青春時代の追想なんか、ちょっと泣ける。


でも、なんといっても好きなのは、

   皐月待つ 花橘の香をかげば 昔の人の 袖の香ぞする
          
            (読み人知らず『古今和歌集』)

初めて知ったのは確か中学か、高校あたりだったと思うが、「昔の人の袖の香ぞする」に、もうクラクラした。

その香りをかいだとたん、おそらくは様々によみがえったであろう「昔の人」との思いで・・・・・
たぶん立ち止まって、あたりを見まわし、自分に過去を思い出させた橘を探したであろう作者の姿・・・・・
よく晴れた五月の、京の町中でのことだったかもしれない。
あるいは、ふと思い立って出かけた郊外の田舎家の前だったのかもしれない。

思いがけず出会った「昔の人の袖の香」が呼び覚ましたであろうものの切なさに、胸がつまったのを覚えている。
まだ、思い出すべき「男」もいなかったくせに。

人のまとう「香り」は、人格の一部だと思う。
植物のそれは、言葉そのもの。
特に、薔薇の雄弁さに出逢うと、つい詩人になってしまう。



   月の名を口にするなかれ
   黄泉の王の恋情に
   深き霧の香をまといて
   ひっそりと微笑む者は




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